2009年9月2日

飛騨春慶塗 西田恵一さん(西田木工所)


オンラインマガジン-日本各地の職人を訪ね、Made in Japanのものづくりの現場をご紹介しています。
「やはり年齢とともに春慶に対する考え方も変わってきますね。」
“今までなかったもの”や“派手なもの”を作ろうとした過去を振り返りながら語る西田恵一さん。徐々に、「過去の歴史の中で作られ、残されてきたものには完成されたものがある」と感じるようになったという。

“かにかくに 物は思わず 飛騨びとの 打つ墨縄の ただ一道に”

この歌は日本最古の歌集である万葉集に詠まれている歌である。
『あれやこれやと浮気はしない飛騨の工匠が打つ墨縄が一直線であるように、ただ一筋の道を行くのだ』
飛騨の匠と称された職人たちの手技を引き合いにした恋歌で、奈良時代には都の人々を魅了するほどの技が認められていた証でもある。
そして現代。飛騨の木工文化の源である「飛騨の匠」の技は脈々と受け継がれている。天然木目の美しさと透明感あふれる艶(つや)を持つ春慶塗(しゅんけいぬり)を現代につなぐ西田木工所の3代目 西田恵一さんにお話を伺った。

職人への道のり

西田さん「私の場合は祖父の代からこの家業をしていましたので、私で3代目です。私自身は幼い頃から家業を見てきて、この仕事をやりたいと思っていましたし、モノづくりも好きだったので高校を卒業してこの仕事につきました。 仕事をはじめてわずか半年で祖父が亡くなってしまい、それからは父の後ろについてまわり、材料の仕入れからすべての仕事を教わりました。もちろん初めは何をやってもいいのか、どの木を使ったらいいのかわからず大変でしたね。そうしているうちに時代も変わり、お客様から新しいものを作ってくれとか、新しい作品を作り出したりして、あっという間に約30年経っ ていました(笑)」

木との対話

約400年という長い歴史の中で育まれてきた春慶塗。ひとつの作品が仕上がるまでには木地師(きじし)と塗師(ぬし)の職人が丹念に手作業を施す。飛騨の匠たちがその手技すべて注ぎ込んであの輝きが生まれるのだ。

西田さん「木地師は材料となる木材を様々な技法で作品の形に仕上げるまでが仕事です。塗師は木地師から預かった作品に漆を施し、完成させるまでを担当します。それぞれが分業されていて、職人の共同作業で作品が仕上がるんです。お互い職人ですから厳しいことを言ったり言われたりしますが、信頼があるからこそひとつのものを共同で作れるのだと思います。」

春慶塗は美しい木目もその魅力のひとつ。もちろん材料となる木の仕入れもプロの目を必要とする大切な仕事だ。しかしそこには自然物が相手ならではの難しさと面白さがあるという。

西田さん「材料の仕入れのときは、節(ふし)の位置や、割れ、色などいろいろなポイントを見ます。しかし材料となる丸太は製材して中を見てみないとわからないところが一番難しいんです。曲げ物の素材は長さの長いもの、幅がある程度必要なものが多いので、良い木(作品に適している木)か、そうでないかは運みたいなところもあります。そこが大変なところであり面白いところでもありますね。

背筋が伸びるような木の香溢れる工房。

飛騨の匠の現在

伝統産業には長い歴史があるからこその迷いや葛藤も生まれる。ひとりの職人としての道のりにはどんな試行錯誤があるのだろうか。

西田さん「若い頃は“今までなかったもの”や“派手なもの”を作ろうと思っていました。でも最近はそういう“今までと違うことをしよう”という気持ちから、昔からあるものをきちんと見直していくことが大切だと思うようになりました。やはり過去の歴史の中で作られ、残されてきたものには完成されたものがあると感じるようになったんです。やはり年齢とともに春慶に対する考え方も変わってきますね。」

伝統的なデザインに宿る、削ぎ落とされた引き算の美。素材である木の魅力をありのままに感じられる春慶塗だからこそ誤摩化せない。温度や湿度にも敏感な漆、ひとつとして同じものがない木。それらを技でまとめあげる職人を取り巻く環境には、時代の流れとともに様々な課題もある。

西田さん「飛騨春慶だけでいうと、木地師や塗師もあわせて職人の数は全部で30~40人くらいでしょうか。しかし高齢化などもあり、実際に中心的に活動しているのは20人くらいです。そして、木地師だけでいうと、30代より下の世代がいないんです。かつては家業として継いでいく世襲制が多かったのですが、それも今はなくなっているのが現状です。」

木地師真髄の“曲げ”技。

山桜の皮を通す綴じ目をあけていく。

磨き上げられた日本のモノづくり文化を継承する難しさと対峙しながらも、新たなものを生み出し、次に繋げていく。伝統を受け継ぎ伝えていく源にあるのは、もっと良いもの・現代にあったものを作りたいという職人たちの意欲だろう。 そしてそのサイクルを支えるヒントは 日本古来の“モノを大切にする文化”にある。

西田さん「春慶塗は日常の中で使って頂ければうれしいですね。お値段が張ってしまうものもありますが、飾っておいたり特別な日にだけ使うのではなく、日常生活にこそ使って頂きたいです。もし何かあれば修理もできますから、修理しながら何代も使って頂くことができるんです。日本に昔からあった『ものを大切にして長く使う』という文化のなかで育まれてきたものですから。」

丁寧に作られたものを長く大切に使う。資源の少ない日本では当たり前だった文化がいま改めて見直されている。

西田木工所
木地屋として曲げ物を中心にお盆・弁当箱・トレイ・ワインクーラー等を製作。曲げ物には桧・杉などを使い、薄物や重ね曲げ加工など、各種依頼に応じ、小ロットからの製作を行っている。

西田木工所 西田恵一さん。

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