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2018年10月26日

会津塗(福島県)

東京から福島県会津若松市まで車で向かうこと約4時間。出発したときは、まだ夏の終わりのようなじっとりした暑さを感じていたのに、今回取材で訪れたその地は、雨の中にほのかな秋の冷たい気配が感じられる。かつて城下町であった会津の一角にある工房「一富」の塗師:冨樫 孝男さんに会津塗をご案内頂いた。冨樫さんは祖父の代からずっと続く会津塗の職人家系の三代目。

「子供の頃から漆塗に囲まれて育ったので、仕事場がごく自然な環境で、そこを走り回って、勢い余って漆の桶に足を突っ込んでも全然かぶれなかったというぐらい。絶対真似したらダメですけどね。」と、おおらかな笑顔で包み込むように笑う冨樫さん。

工房を見渡すと、丁寧に手入れされた道具が、職人の手元に並んでいる。
会津塗では、職人は一本必ず自分のヘラを持つようになっているのだそう。鉈(なた)のようなもので大きさにあわせて削り、まず修行では、ひたすらヘラ削りからスタート。製作過程で使う道具類はすべて天然素材で出来ており、塗るためのヘラは檜(ひのき)の素材で出来ていて、刷毛は人毛で出来ているのだそう。この刷毛もペンキを塗る刷毛とは違って、持ち手の奥まですべて人毛が入っていて、削り出して根本まで使い切るように使用。「一本あれば一生持つほど、大切な道具なんです。」という言葉から、伝統工芸にとって、道具がどれだけ重要なのか重みを感じる。

これらの道具自体も非常に貴重なもので、刷毛を作っているのは国内でふたり。会津出身の28歳の女性が、3人目に続くべく修行して、会津に戻ってきているのだそう。
この工房でも、若手の女性工芸士が多い。地元出身がひとり、あとは北海道、栃木県など県外から会津塗を勉強しに、会津の専門の学校に入り、現在に至る、など初めたきっかけは皆それぞれである。冨樫さんは学校で講師も務めており、会津塗の職人育成にも力を注いできた。
師匠の冨樫さんの基本に忠実でありながら、アレンジしていく技法を尊敬していますと説明してくれたのは、女性工芸士の菊地さん。今回の会津塗に出展する若手女性職人である。

工房の棚に並んでいる器に目をやると、どれもが自然モチーフの素材で出来ているということが想像できないような緻密な作品がたくさんある。冨樫さんが1点ずつ説明をしてくれる。

「これは『玉虫』という技法です。もともとは仙台で開発された技法で、日本では仙台と会津にだけある技法になります。漆を塗る前に純銀であるシルバーを全面に蒔いて、塗る前は全部銀色。そこに赤味をいれた漆を混ぜるとワインレッドのような色になります。光の中の銀色の部分から出てくるんです。この玉虫の技法は、祖父も父もやってきたものでしたが、昭和五十年ぐらいからオーダーが減ってきたのかやらなくなっていたんです。私が修行から戻り、倉庫の片づけをしていたら出てきて “なんだ!これ” と興奮しました。父に尋ねると “あー昔やってた玉虫ってやつで今はやらないんだ” と言われ、“教えてくれ、教えてくれ!” とせがんで習いました。」

「こちらの器は卵の殻で出来ていて、鶏卵ではなく、うずらの卵です。漆って茶褐色の透明なので、例えば白い顔料を入れても真っ白にはならないんですよ。なので卵を使うことで、色味を表現しています。これも江戸時代頃からある技法です。『卵殻』っていう卵の殻と漆で一つずつ爪楊枝を使ってあつらえていきます。卵殻を貼っただけだとはがれてしまうから、 上に貼った卵との段差をなくして平らにする作業をつみ重ねます。ほかにも貝殻を使った作品もあり、貝を一回ブルーに染めて、丸3~5日かけて貼っていく技法もあります。本当に地道な作業なんですよね。」

ふと、これから来る冬の季節の想いを馳せた。取材者の私も東北出身である。東北の冬は長く厳しい。長く感じられるのは雪が積もり、春の桜の頃までが待ち遠しいという想いが募るからなのだろうか。そんな東北の四季と会津塗の緻密な工程は、ぼんやりとイメージの中で重なるものがあった。

つづいて工房「小椋木工所」の木地師:小椋 大祐さんを訪ねた。まず驚いたのが、木を削る激しい機械の音。ペダルを踏むと激しくベルトが回転し、その動きに連動して印をひいた位置まで回転して削れていく。点と点をつなぎ、線をつないでいく。その工程の1mmも狂いのない作業。生地師には縦木取りと横木取りの職人に分かれていて、小倉さんは数少ない縦木取りの職人。それぞれ縦横の長所と短所を説明してくれた。両方を行う職人はいないそうで、会津には縦木取りの職人はふたりしかいないのだそうだ。主に使う木材は、欅、水目、栃、楓をメインとし、それぞれ硬さも違うので、その木材によって切る時のタイミングも計算して行う。一日中ひとりで行う作業なので、工房がいかに自分にとって快適で使いやすいかが大事なのだという。工房の壁には、刃物がずらりと掛けられていて、すべてご自身で手入れをされているのだそう。刃物の切れ味は仕事に大きく影響するため、やはり道具の管理は基本。削った木の屑は冬の間まで取り置いておき、ストーブで燃やすため材料も無駄がなく全てエコに出来ていると、茶目っ気のある表情で教えてくれた。

塗師:吉田 徹さんと、塗師蒔絵:小松 愛実(まなみ)さんは子弟関係にあり、吉田さんは冨樫さんの兄弟子にあたる。目を細めながら、小松さんの所作をみて、一緒に修行をしていた吉田さんの動きによく似ていると冨樫さんが眺めている。
小松さんは跡継ぎの家系ではなく、岩手県出身で会津塗を学びにきて、そのまま 「こまつ漆工房」を立ち上げた。跡継ぎで継承されることが多い中、独立した中では小松さんが一番長くやっている女性職人になるそうだ。女性ならではの感性でアクセサリーやブローチも製作している。
兄弟子である吉田さんは「吉田漆工房」にて、お店を今年OPENした。こだわりのある静かな空間の中に、端正に並んだ会津塗の器が並ぶ。

日も暮れた頃に「蒔絵工房てるい」の蒔絵師:照井 克弘さんを訪問した。ちょうど板かるたを作成していた。
蒔絵は、金粉・銀粉などで漆器の表面に絵模様をつける、漆工芸技法のひとつである。使用している筆は猫の毛なのだそうで、細さと柔らかさが適しているようだ。金箔の粉は少しの凹凸でもきれいになじまないので、すべて均一で平らに行わないと乾きもまばらになる。漆が乾燥しきるすぐ前を見極め、金粉を付ける、その感覚をつかむのが重要なのだと照井さんからお聞きした。
金は1g=6,000円と非常に高価ではあるが、それ以上に、この細かな技法の時間が掛かることに、大量生産にはない付加価値が感じられた。照井さんの工房でずっと気になっていた水芭蕉モチーフの図案について尋ねてみたところ、祖父の代から代々受け継がれているモチーフなのだそう。家紋とは違うが、代々大切に受け継がれているモチーフがある事が、とても素敵なことに感じられた。

代々受け継がれていくことも、はじめての土地で一代目からスタートすることも、どちらも一筋縄ではいかない強い意志のいることなのだろう。冨樫さんも同じ職人である父とは、毎日喧嘩になるほどぶつかり、工房の奥の部屋に襖を一枚立てた時期もあったそうだ。それだけ真剣に向き合っている関係の中で親子の垣根を取り払って、更に継承し新しいものを生み出していくというのは、本当に素晴らしいことなのだと感じる。今回の11月に開催されるイベントでは作品ひとつひとつにそんな想いやストーリーも詰まっていることを楽しみに感じられる一日だった。

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