2009年8月29日

久留米絣 坂田憲子さん


オンラインマガジン-日本各地の職人を訪ね、Made in Japanのものづくりの現場をご紹介しています。
反物以外のものへ生まれ変わった久留米絣が店頭に並び、愛されること、それが自信と励みになると嬉しそうに坂田憲子さんは、「今思えば、私は久留米絣が好きだったんだなって思います・・・。」と、自分が一番の久留米絣のファンであることに気づく。

久留米絣の歴史はひとりの少女から始まった。1788年、米問屋の家に生まれた井上伝は幼い頃から機織りの好きな少女だった。12、3歳の頃、着古した藍染めに白い斑点模様ができていることに気がつき、現在の久留米絣の元になる技法を思いついた。誰もが気にも留めないことを疑問に思い、好奇心を持って追求していく。そんな少女の情熱が現在の久留米絣にも息づいている。 昭和23年に創業した(有)坂田織物。戦後間もなく先代の坂田政次氏が地元の産業であった久留米絣を織り始めたことからはじまり、現在では洋服や帽子など、様々なアイテムで多くの人に愛されている。 坂田さん「父は戦争から帰ってきて、はじめは作業着用の生地として久留米絣を織りはじめたんです。そして時代の変化とともに反物だけでは商売が難しくなり、2代目である主人が反物にハサミを入れて、小物入れやバッグなどを作り始めました。」 そう話してくれるのは、常務取締役の坂田憲子さん。現在の代表取締役、坂田撤裕さんとご夫婦で久留米絣を継承している。 坂田さん「主人は銀行に勤めていたのですが、当時、海外転勤話が持ち上がりまして。結局一人息子ということで実家に入ることになり、その1年後に私が嫁いできました。私はそれまで商売とは無縁の家でのんびり育ってきたので、最初のうちは世の中がひっくり返ったような毎日でした(笑)。商売の大変さはもちろん、機織りの工程も覚えるのが大変で大変で。」

久留米絣が出来上がるまでには沢山の作業工程がある。図案作りから経はえ(たてはえ)、ぬきはえ、さらし(漂白)、括り(くくり)、藍染、絣解き(かすりほどき)・・・。約20にも渡る手作業を施すことによって反物が生まれる。

久留米絣の日傘が生まれるまで

かつて好奇心と探究心を持って久留米絣の基礎を築いた井上伝という少女。そして現代、やはり女性ならではのアイデアで新境地を切り開く坂田さん。人気商品となった久留米絣の日傘はどのように生まれたのだろう。

坂田さん「はじめはお客様から『シャリ感のある反物が欲しい』というご要望があって、社長が黒字に模様の入った新しい綿素材の反物を作りました。それが“筑後もめん”です。そして、その頃ちょうど世間的に日傘がマスコミで話題になっていて、『黒い日傘は遮光率が高い』と言われ始めていた頃だったんです。」

坂田さんは新商品のアイデアとして日傘を検討していた。そこで“筑後もめん”を使った日傘を作り始めた。

坂田さん「そのころ通っていた勉強会で、お客様を説得するには言葉の説明も必要だが、データ化も必要だということを知りまして、福岡県の工業試験所に調べて頂いたんです。そうすると筑後もめんの紫外線遮蔽率が生地の黒い部分で99.3%、白地でも95%という結果が出ました。そして無加工の状態ですから、風通しがとっても良いんです。これって日傘にとても適していますよね。普通は遮蔽率が高くても樹脂加工をしたりするので風通しはあまり良くないことが多いんです。」

そして久留米絣の日傘は幾度も軽量化などを繰り返し、現在のようなコンパクトで細部にこだわりを感じる、他とはちょっと違う日傘になった。

細部にまでこだわることが人気を支える秘訣。

持ち手部分には国産の寒竹を、親骨にはかし棒を使用して軽量化。

久留米絣の特徴である通気性の良さを最大限に活かした。

現代と向き合う伝統技術

坂田さん「2002年から売り先を求めて大規模な総合展示会へ出展をしていたんです。・・・それこそ地場だけでは難しいものですから。ですが創業62年で、どうしても機織り屋からの目線でしかモノが作れなかった。それを四苦八苦しながら勉強会やデザインワークショップに参加させていただいて、その中から筑後もめんの日傘も改良を重ねて土台ができてきました。その結果、日傘でグッドデザイン賞金賞を受賞することができたんです。」

地場産業のものづくりは後継者問題、売り先の問題など、個々に悩みを抱えている工房は多い。しかし坂田さんは商品作りと真摯に向き合うことで、新しい展開に繋げることができた。

坂田さん「地元からも色々な方がミッドタウンに見学に行っているんですが、『坂田さんの商品がお店に並んでたよ!すごかね!』って言ってもらえるんです。それがとっても嬉しくって。」

200年続いている伝統工芸品である久留米絣をテキスタイルとして、従来にないプロダクト(日傘)に活用し、新たな商品製と市場を開拓しながら伝統継承を図っている。伝統産業を繋ぐ難しさを打開するのは、やはりモノを愛する人間の智慧にほかならない。

坂田さん「でも今思えば、私は久留米絣が好きだったんだなって思います・・・。やっぱり今この歳になって、自分達の織った反物が洋服になったりお着物になったりして色んな方が好いていてくださる。そして東京の店舗ジカバー・ニッポンで、私たちの商品が売り場に並んでいる。それが地方の生産者である私たちには本当に励みになるし、自信に繋がります。おかげさまで九州の人間ですが、東京を少し身近に感じるようになりました(笑)。」

触れると、まるで藍染めの清々しさがそのまま肌触りとして伝わってくるような久留米絣。伝統を継承する心意気は、200年前の少女から現代へ繋ぐ糸のようにこれからも先へと繋がっていく。

トンカラリンと響く機織りの音-町の風景はガラリと変わっても、変わることのない機の音が今も久留米の空に広がっている。

有限会社坂田織物
創業昭和23年の久留米絣の織元で、製造から企画・販売までを行っている。久留米絣で経済産業大臣賞を3回受賞、2002年度グッドデザイン賞を受賞するなど意欲的に製品開発を行っている。

有限会社坂田織物 坂田憲子さん。

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